2022.05.22 Writer:弾語亭マレンコシ(音蔵カンサイアンバサダー)

カンサイライブ名所巡り4 umeda TRAD(大阪キタ)

大阪キタ堂山とともに。旧くて新しいTRAD。

umeda TRAD

https://umeda-trad.com/

●バナナ〜akaso〜TRADの系譜

「梅田トラッド」。

このホール名になってまだ5年だが、「トラディショナル」が意味する通り、梅田トラッドは大阪におけるライブハウスの歴史、系譜の継承者である。

というのも、その歴史を遡れば、その源流は第一期バナナホールへとたどり着くからだ。

まず、トラッドの前身である「umeda AKASO」は、2009年9月、商店街「パークアベニュー堂山」にあった旧「梅田バナナホール」跡にオープンしたライブハウスで、店名は大阪をローマ字表記した「osaka」の逆さ読みに由来。

「大阪をひっくり返すくらい楽しいエンターテインメントホールにしたい」というコンセプトで、2010年には、ビジュアル系バンド「ゴールデンボンバー」が全国ワンマンツアー「全力バカ」の初日公演に利用するなど、ロック、ポップス、演歌といった音楽公演から、アイドルライブ、スポーツ中継、謎解きゲームなどのイベントまで幅広く展開してきた。


●2017年春、梅田トラッドへ。


その店名が「umeda TRAD」に変わったのは、2017年4月のことである。

ちなみに、この地で2007年に一時閉店した1981年開業の老舗ライブハウス「バナナホール」は、トラッド誕生と同時期(2017年春)、同じ堂山町のモンテビル内で「バナナホール」として9年ぶりに営業再開している。

梅田トラッドを運営する株式会社mTune(エムチューン)代表取締役・青木清和は、バナナホールから梅田akasoにバトンが渡った、その時から13年、この地で梅田akaso、梅田トラッドのホール運営に携わってきた。

「トラッドの命名は、私です。

この場所の伝統を意味する面もありますが、実は私が山下達郎さん、竹内まりやさんのファンで、竹内まりやさんのアルバム名「TRAD」からいただいたというのが直接的な命名由来です。」

店名の由来についてこう語ってくれた青木は、自らのバンド経験、音楽歴はなく、純粋なファンの目線で音楽を見つめている。

この業界に飛び込んだのは、私が大学生の頃でした。

通っていたバナナホールでは飲食のサービスが目立っていたので、『キッチンでのアルバイター募集はないのですか?』と自分から店側に働きかけ、バイトを始めたことがきっかけでした。

その時代を含めれば、ほぼこの場所で、バナナ〜akaso〜TRADの系譜とともに生きてきたということになりますかね。」



●縦に長い無柱のひな壇が圧巻

梅田トラッドの建物内外は、白黒を基調としたシンプルで美しいデザインだ。

フロアは縦に長く、客席に柱がない開放感のある造りで、スタンディングでおよそ700人を収容できる規模なのだが、ステージ高が90センチあり、客席が3段階のひな壇構造となっていて、後方からもステージがよく見えるというのが特長となっている。


また、規模が大きいだけに、動員力のあるバンドやイベントのブッキングが大半を占める。


年間300本がほぼ埋まるので、新人の登竜門的なライブハウスというわけではない。

その日のステージが終わってのアフターのバー営業もなし。ライブ営業に徹しているところもTRADの名の通り。トラディショナルな、大阪を代表する典型的老舗ライブハウスなのである。

「かといって、アーティストまでトラディショナルなアーティストに出演が偏っているということはまったくありません。フラワーカンパニーズ、人間椅子、ガチャリックスピンあたりは、繰り返し定期的にステージで暴れてくれます。確かに他のライブハウスに比べると、アイドルのステージがあまりなく、比較的ロックバンド中心のブッキングになっているという自覚はありますが。

かといって、ホールとして音楽ジャンルに対するこだわりがあるかと問われれば、それは全くといってよいほどないのです。」


青木はこう続けた。

「ラジオ局とタイアップした落語イベントや、プロレスの興行を受け入れたりもしています。例えばダブプロレスという広島生まれのプロレス団体は、「プロレスと音楽の融合」を掲げていて、DJがプレイする音楽が流れる中でプロレスを行うというエンターテイメント性の高いもので、リングの周りに椅子を置かず、至近距離で立ち見観戦できるという特徴もあって、うちのホール特性を活かしてもらえる対象ではあります。」


●音楽ファンの気持ちと目線を大切に

改めてになるが、青木には音楽歴やバンド経験がない。

しかし、学生時代からバイト代のほとんどはCDやライブ、コンサートなどに消えていったというから、かなりディープな音楽ファンである。

「うちでやったきたステージを振り返れば、ある時は来生たかおのピアノ弾き語りに感動し、サカナクションのデビュー時に衝撃を受け、ボーディーズなんかは見た瞬間『彼らは売れる』と確信したり。私自身が、プロのホール経営者であるとともに、一方で純粋な音楽ファンの目線を失わないことも、実は大切なことのように思います。」

これからのトラッドについて質問をするとこう答えてくれた青木は、続けて締めくくってくれた。

「今回、コロナというものに見舞われ、音楽の存在価値が議論される中で、「不要不急」ではないとされる向きもありました。しかし、私は、人は音楽にいつも癒されていると思っています。とても大切な存在ではないですかね。ですので、アフターコロナでは、コロナ以前の姿に盛り返していきたい。いつになるかわかりませんが、また、そういう日が来るのが可能なのか不可能なのかわかりませんが、コロナ前の、あの熱狂的なライブをまたいつか。また見たいかな、と思っています。うちはビール、酎ハイ、ハイボールは600円ですが、プラス100円で、どーんとサイズアップします。甲子園球場の、あの長いコップみたいなイメージです。野球観戦もいいですが、ライブ鑑賞もいいもんです。気軽にトラッドに足を運んでください!」