国際都市神戸の中心・三宮駅から最も近い「アメリカンスタイル」のライブハウス
「KOBE BLUEPORT」with「青港」
●居酒屋とライブハウスのハイブリッド
日本のライブハウスの基本的スタイルと言えば。前売りか当日にチケットを購入し、入場時に別途1ドリンクの料金を払うというのが一般的ではないだろうか。
一方、基本的にアメリカやオーストラリアでは。ライブハウスという形式よりも、ライブの出来るBARやCAFÉ、PUBと言ったような場所がほとんどで、大きな会場ともなるとドリンク・BARコーナーがいたる所にあり、ライブにアルコールが欠かせないモノとなっている。したがって、「入場時に必ず1ドリンクオーダーを」というような日本流システムはない。メインがBARで、裏にライブの出来るスペースがあり、ライブをやっている最中でもBARには一般の客がいて通常営業をしていたりすることも多い、それが「アメリカンスタイルのライブハウス」である。
日本では数少ない、こうしたアメリカンスタイルを具現化した珍しいライブハウスが、神戸にある。
「駅からもっとも近いライブハウス」としても知られているように、三宮駅(JR・阪急・阪神)を北側(山手側)に出て、ほんの数分ぶらりと歩けば「KOBE BLUEPORT」という3階のライブフロア、「青港」という2階の居酒屋のハイブリッドスタイルがセットで楽しめる、今回はそんな場所をレポートしたい。
お酒と料理が気軽に楽しめる2階「青港」は、カウンター10席にテーブルスペースが一つついた、小料理屋風情の居酒屋。コロナ禍で営業休止していたが、アフターコロナには営業再開の予定である。
腰を落ち着けてカウンターで酒と肴に舌鼓を打つ、そんな日が待ち遠しい一方、3階のライブハウス「KOBE BLUEPORT」はスタンディング約200名・シッティング約70名の収容が可能で、感染防止対策を万全に施しつつ毎日元気に営業中である(写真はもちろんコロナ前、「Little Yard City」のステージ。現在は、ソーシャルディスタンスをしっかり保っての営業となっている)。
2階3階どちらもなんとスリードリンク1000円!という超破格の「せんべろ企画」があったり、非常に安価な価格設定も魅力だが、2階では飲み物同様の「破格」の値段で和食も楽しめるし、3階にはステージに向かって右に広くておしゃれなBARコーナーがあり、ソファーで休めるスペースもゆったりあったりする。とにかく老若男女を選ばない、誰もにとってとても居心地の良いライブスペースとなっている。
●「Little Yard City」のギター&ボーカル
オーナーの川内康寛は、まだ38歳。
学生時代は2003年に営業開始した「KOBE BLUEPORT」の出演者の一人だったが、そのまま音楽とこの場所にのめり込む形で、卒業後からずっとここで働いている。プライベートでは最近結婚が決まり、仕事と家庭の両立を自覚する、とても温かみのある穏やかな人柄が感じられる人物である(さて、下の写真のどなたが川内オーナーでしょう?)。
彼がこの店のオーナーになったのは2017年のこと。複数の事業を営んでいる前オーナーからその働きぶりを評価され、「この店のオーナーとしてやってみないか?」と誘われる形で店の経営を託された。
「大学時代から出演者として通い、卒業してからはすぐにここで働き始めたので、学生時代からほぼ20年間、私はどっぷり「KOBE BLUEPORT」に浸かって、ともに歩んできました。」
5人組ピアノロックバンド5人組ピアノロックバンド「Little Yard City」は、キャッチーなピアノのメロディーとエモいヴォーカルの重なりが魅力だが、そのギターボーカルとして現在も活動しつつ、「KOBE BLUEPORT」「青港」を経営する川内は、20年にも及ぶ歴史をこう振り返る。
「スタークラブという、チキンジョージ、アートハウスとともに神戸を代表する老舗ライブハウスがかつてありました。そこで働いていた人の有志何人かが2003年にこの店を立ち上げたのが始まりです。最初は、現在の場所より少し西(元町駅近く)の今より狭い場所でスタートしたのですが、1年後の2004年7月には早々に今の場所に移りました。その創業時代からご縁をいただき、それからずっと現在までこの店の運営に携わってきたのが、私とPA担当の2人です。」
●青春パンクの殿堂として
川内の学生時代、20年前というと、「青春パンク」が盛り上がっていた時代だ。
青春パンクとは、パンク・ロックのポップで疾走感のあるメロディに、「青春」をモチーフにした歌詞をのせたスタイルが特徴。代表的なバンドとしては、GOING STEADY(ゴイステ)、藍坊主(あおぼうず)、太陽族、175R、ガガガSP、モンゴル800などが挙げられるだろう当時おもに中高生だったファン層から熱狂的に支持され、音楽シーンを席巻していた。
この青春パンクバンドの多くは70年代後半~80年前後生まれで、いわゆる就職氷河期世代と重なる。ちょうど青春パンクのバンドメンバーたちの少年時代~思春期に至る年代が、バブル崩壊から「失われた10年」(のちに失われた20年)と合致する。そんな彼らの土壌を作ったのは、言うまでもなく80年代のレジェンドバンドTHE BLUE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)であろう。
ブルーハーツは、バブル真っただ中の時代にあって、「大切なのはモノじゃないだろう!」という価値観をうたい上げた。解散後もその影響力は強く残った、その典型が「青春パンク」である。
開業から20年。それが下火に向かおうとも、「青春パンクの殿堂」であり続けてきたことは、「KOBE BLUEPORT」が担ってきた重要な役割の一つではなかろうか。
●ハードコアの聖地として
「青春パンク」の時代から音楽をやめずに働きながら続けている、そうした人たちが一定数いる。
そんな彼らが、「KOBE BLUEPORT」を舞台に「ハードコア」という音楽にこだわって楽しんできた。「KOBE BLUEPORT」の歴史は、ハードコアの聖地であり続けてきた20年とも言える。
「中核」「筋金入りの」という意味をもつハードコアは、「パンクロック」を源流として、激しい音楽性と筋の通った精神性を併せ持つ、きわめて硬派な音楽ジャンルである。
「パンクロック」は、スリーコードを主体としたシンプルな曲調が特徴で、それまでのバンドと比較すると稚拙な演奏技術しか持たない若者たちが社会への怒りを声高にぶちまける、そんな音楽だが、そこから枝分かれしてハードコアは生まれた。
シンプルなパンクロックからは、それを進化させ音楽性を広げていこうと考えるバンドも出現し、ポストパンクやニューウェーブという新しいジャンルが芽生えていったが、逆に、そうした時代の流れに反発するかのように、パンクロックが本来持っていた生々しい剥き出しのエネルギーを突き詰めていこうという動きも現れた。
「よりうるさく、より速く、より激しく」
パンクロックの核となる要素を先鋭化していったバンド群が生み出したジャンル、それがハードコアである。
ハードコアは、より過激なパンクロック、というシンプルな言い方ができるかもしれない。なぜなら、パンクロックが反逆の音楽だったように、ハードコアもまた反骨の精神性を強く押し出している音楽だからである。
それゆえ反商業主義的な姿勢を持ち、メジャー音楽と対極にあるハードコアバンドたちは、バンド運営のすべてを自分たちの手でおこなうことが特徴だ。このDIY的なバンド運営の手法はのちに一般的となるインディーズの流れの源流と言われているが、日本において「KOBE BLUEPORT」は、ライブハウスとしてこの「DIY的」な運営を大切にしており、ゆえに「ハードコア」の聖地であり続けてきたように感じる。
川内は言う。
「大人になっても音楽はやめない。
仕事を持ち、家庭を持っても、音楽はやめない。
そして、言いたいことを、音楽に乗せてちゃんと叫ぶ。
この店で、先輩たちからこうしたハードコアの魅力を教わりました。」
●だからこそのハイブリッド
一般論で言えば、ハードコアで非常に重要な要素のひとつが音量だろう。
全体のアンサンブルや各パートの音の分離などは二の次で、とにかく大音量でひたすら速く激しく演奏するのがハードコアの美学であり、ヴォーカルはとにかく叫ぶのが基本。メロディを歌うというよりリズムに乗せて歌詞をがなりたてる。ディストーションで歪ませた爆音ギターはテクニックをひけらかすようなギターソロはほとんどなく、あってもごく短い不愛想なものが大半だし、ベースは、ギターリフと同じ動きをすることが多く、ファズなどのエフェクターで極端に歪ませるバンドもある。そしてドラムは速さを求めてひたすら突っ走る、その猛スピードのドラムビートはハードコアの音楽的特徴である。
「まさにそう言う【ザ・ハードコア】なバンドあり、姿勢や考え方はそうでももっとポップでキャッチーなバンドもあり。音楽は自由であり、爆音でないとダメということは決してありません。」
笑いながらそう語る川内だが、話を伺いながら、ハードコアが特徴が際立った音楽だけに、2階で経営する「青港」の意味が増すのだと感じた。例えばアコースティックライブさえ可能な、別のお店として存在することで、青春パンクやハードコアの音楽とは全く違う音楽ファンが、「静かに酒を飲める」場でもあることを現実化するものだからである。
「神戸は、住みたい街としても人気だし、学生の街でもあります。青春パンク、ハードコアの流れを大切にする当店ですが、大人が音楽ジャンルを問わずに自由に楽しめるブッキングもやっていますし、関学、神戸大、神戸学院大といった学生さんの利用も多いですよ。」
川内は続ける。
「何と言っても【三宮駅からもっとも近いライブハウス】であり、2階の「青港」は気軽にお酒と料理が楽しめる「居酒屋」です。お酒と食事を目的に寄っていただき、興味のある音楽であれば3階に上がってライブを楽しんでいただけます。つまり2階の「青港」と、3階の「KOBE BLUEPORT」は、コンセプトの異なる両輪。日本に数少ないそんなハイブリッドなアメリカンスタイルを、さまざまなお客さんに自由に楽しんでいただける場所であり続けていきたいですね。」
さあ、このステージがあなたを待っている。
まずは、ステージに立つもよし、ライブを楽しみに行くもよし。3階「KOBE BLUEPORT」の魅力を感じていただきたい。
そしてアフターコロナの2階「青港」再開に、乞うご期待!である。